名古屋高等裁判所 昭和37年(ネ)120号 判決 1966年4月18日
主文
一、本件控訴を棄却する。
二、原判決主文第三項、第四項を次のとおり変更する。
(1)控訴人は被控訴人に対し別紙(二)第一目録第一記載の仮換地六番上の別紙(二)第四目録記載の建物及び別紙(二)第一目録第二記載の仮換地五番上の別紙(二)第三目録記載の建物のうち別紙(二)図面イロハニホヘイの各点を順次直線で結んだ線によつて囲まれた部分建坪二三八、八六平方メートル(七二坪二合六勺)外二階二三八、六平方メートル(七二坪二合六勺)をそれぞれ収去して右仮換地を明渡すこと。
(2)控訴人は被控訴人に対し昭和三八年七月一日から別紙(二)第一目録第一記載の仮換地明渡しまで毎月二〇、三〇四円の割合による金員を支払うこと。
(3)控訴人は被控訴人に対し二五八一、一八八円及びうち一五〇〇、〇〇〇円に対する昭和三二年三月二四日から、一〇八一、一八八円に対し昭和三八年七月四日から、それぞれ完済まで年五分の割合による金員を支払うこと。
(4)被控訴人のその他の請求を棄却する。
三、訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。
四、此の判決中第二項(2)、(3)は被控訴人において一〇〇〇、〇〇〇円の担保を供するときは、仮に執行することができる。
事実
控訴代理人は「一、原判決はこれを取消す。二、被控訴人は控訴人に対し別紙(一)第一第二目録記載不動産の売買契約が解除されたことを確認する。三、被控訴人は控訴人に対し別紙(一)第一目録記載不動産に対する名古屋法務局吉沢出張所受付昭和三一年三月三一日第五三八九号原因同日売買の所有権移転登記の抹消登記手続をなせ。四、被控訴人は控訴人に対し別紙(一)第二目録記載不動産に対する名古屋法務局吉沢出張所受付昭和三一年三月三一日第五番九〇号原因同日権利譲渡の停止条件付所有権移転請求権保全仮登記の抹消登記手続をなせ。五、被控訴人は控訴人に対し一五〇万円を支払え。六、被控訴人の控訴人に対する反訴請求は棄却する。七、本訴及び反訴の訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。八、附帯控訴を棄却する。」との判決に第五項につき仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は主文第一項同旨の判決及び附帯控訴について主文第二項(1)同旨及び「控訴人は被控訴人に対し昭和三八年一月一日から別紙(二)第一目録記載の仮換地明渡しまで毎月二〇、三〇四円の割合による金員を支払え。控訴人は被控訴人に対し二五八一、一八八円及び内一五〇万円に対する昭和三二年三月二四日以降、残額一〇八一、一八八円に対する附帯控訴状送達の翌日以降、各完済まで年五分の割合による金員を支払え。」との判決並に仮執行の宣言を求めた。
当事者双方の事実上の陳述、証拠の提出援用及び書証の認否は、左記に附加訂正する外、原判決摘示事実と同一であるから、ここにこれを引用する。
(甲) 控訴代理人の主張
(一) 原判決事実摘示第四項を左の通り補充して事実の陳述をする。
一、控訴人は前記補充契約に基き(公正証書)昭和三一年一二月七日長谷川佐吉をして売買物件に存する根抵当権設定登記の抹消登記手続を為さしめ且つ同人より所有権移転登記用契約書及び委任状(何かも登記権利者氏名の部分が白紙のもの)並に印鑑証明等必要書類全部の交付を受け依つて中間省略の方法により何時にても被控訴人に対し売買物件の所有権移転登記手続のできる準備を完了した。
二、控訴人は同月九日(日曜日ではあつたが)被控訴人に面接して前記長谷川佐吉の根抵当権設定登記の抹消登記が出来たこと及び被控訴人に対する所有権移転登記手続準備が完了した旨を告げ且つ控訴人の被控訴人に対する売買物件の所有権移転登記手続に協力方を求めたところ、被控訴人は何時登記手続を為すかについての返事をしなかつた。
しかし右により控訴人の前記補充契約上の所有権移転登記義務の履行の提供は適法に行われた。もつとも、同日は日曜日であつたため翌一〇日より被控訴人の受領遅滞の効力を生じた。
三、控訴人は翌一〇日売買契約が円満に履行できることを期待し、重ねて使者神取すみ子に必要書類を持参させ、登記手続の受領並に代金の支払を求めたところ、被控訴人は控訴人の言を信用せず登記手続(長谷川佐吉の抵当権抹消)の準備が完了したか否かを確認するためわざわざ右神取と一所に長谷川佐吉の事務代理人たる井上を訪問して抵当権の抹消登記が完了した事実を確認し乍らも神取から関係書類を受領しないのみならず登記手続の日時について何等の意思表示をしなかつた。
四、右の次第で登記手続が進行しないので、控訴人は翌一一日更に被控訴人方を訪問して登記手続に対する協力方を重ねて要請したところ、被控訴人は相かわらず地上建物の除去を要求するのみにて、数時間の面談にかかわらず言を左右にして控訴人の申出にかかる所有権移転登記に対する協力をしなかつた。
五、かくて控訴人は誠実に三日間に亘つて所有権移転登記に関する債務の履行の提供をなしたるに、被控訴人は既に移転登記の完了した不動産の売買で満足したものか、公正証書記載不動産については売買履行の意思を失つたものと見え、只地上建物の除去をのみ要求した。
六、それでも、控訴人としては何んとかして全土地の売買契約を円満に完了したいと考えて、その翌々一三日更に被控訴人方に電話をかけて、重ねて登記手続を完了させ残代金の支払をなすべきことを要請したところ、やはり地上建物の除去を要求するのみで移転登記手続の履践の交渉は不成立に終つた。
七、しかし、建物の収去期限は公正証書により明かに昭和三一年一二月三一日と定められて居るので一二月九日頃はまだ期限未到来であるから、敢えて被控訴人がこれを要求するのは契約上できないことであるが、結局期限未到来の建物除去を理由となし控訴人よりの移転登記手続の協力を拒否しこれに依つて残代金の支払期日を延引させようとした。
八、右に依つて明らかな通り控訴人の所有権移転登記義務の履行の提供は一二月九日適法に為されたものであり、従つて被控訴人は昭和三一年一二月一〇日より受領遅滞に陥入り、同日より公正証書第二条により代金支払の義務を負担し且つ支払期限が到来した(不確定期限が確定したわけである)。
九、果して然らば被控訴人は一二月末日の建物除去の期限前に既に代金支払義務を生じたから建物の除去とは全然無関係に公正証書(甲第二号証補充契約書)第八条により昭和三一年一二月一七日までに約束の代金を支払わない限り当然に売買契約が解除せられ(全部について)これに因つて代金支払の債務は免除せられるけれども、一五〇万円の損害賠償債務を負担するに至ること当然であるところ、被控訴人は昭和三一年一二月一七日までに代金の支払をしなかつたので、本件売買契約は当然に解除せられたものであり、尚一五〇万円の損害賠償をしなければならない。(尚控訴人は原審において前記主張と若干相違した主張を為したが原審主張の基礎をなす甲第三号証の内容証明郵便は前記事実を明確にするため特に文書を以つて相手方に通告したもので、これは催告書ではなく念のため昭和三一年一二月九日控訴人は適法な登記上の履行の提供をしたから代金の支払期限が到来したこと並に公正証書第八条により一週間の支払遅滞をすれば契約が解除される旨を通告したものである。)
一〇、仮りに昭和三一年一二月九日同一〇日、同一一日の控訴人の口頭による弁済(所有権移転登記の準備が完了した旨の通告並にこれが手続に対する債権者の協力要請)の提供が不正確又は立証不充分としても昭和三一年一二月一五日附内容証明郵便により(此の内容証明郵便は同日送達済)控訴人の売買契約に基く弁済の提供は適法に行われたものである。
従つて本件売買契約は遅くとも被控訴人の代金未払により同月一八日、同一九日又は同月二二日解除された。
(二) 本件土地は売買契約解除によつて控訴人の所有であることを主張する。
被控訴人の主張中重要な争点及び原判決が認めた争点に対する反論。
一、被控訴人は所有権移転登記手続書類を完備して被控訴人に履行の請求をした事実はないと言うが、
(イ) 長谷川佐吉の根抵当権は昭和三一年一二月七日完全に抹消して此の旨を相手方に通告した。
(ロ) 所有権移転登記手続についてはその必要書類として不動産売買契約書、所有権移転登記用委任状、印鑑証明書を登記名義人たる長谷川佐吉より交付を受け何時にても被控訴人に対し売買物件の所有権移転登記手続ができる一切の書類が完備していた。
(ハ) これ等の準備書類を相手方に見せたり、交付する必要はなく準備をすれば足りることは民法第四九三条に依つて明かである。
(ニ) 現に控訴人は本件契約解除後長谷川佐吉から交付を受けた必要書類のみに依つて控訴人名義に移転登記ができた事実からもこれを立証できる。
(ホ) 登記義務者が相手方の協力を必要とする場合、準備完了の旨を告げこれが受領(移転登記を受けること)を申出で又は請求した以上、登記権利者において法務局え出頭できる日時の回答をしない限り、登記義務者の登記義務は履行不能である。
(ヘ) 被控訴人は控訴人に対する連絡のため昭和三一年一二月一六日(日曜日尚履行期限の最終日と考えられていた)百方捜査したと言うが、これは事実に反する。即ち控訴人は登記義務履行のため一二月一四日以降行方をくらました事実はない。上園町の自宅(市営住宅)には妻日比野ときが中風の父を看病していたから、極めて短時間の外出は別として一時間以上家をあけることはできない状態にあり、従つて被控訴人が控訴人方を訪問したとせば必ず充分な連絡がとれる筈である。
(ト) 尚控訴人は被控訴人の控訴人に対する急用の連絡に便するため控訴人の妹日比野秀子が経営している喫茶店「ベレー」の電話を教えてあつたから、此の電話を利用すれば直ちに控訴人に対する連絡がとれるように予め用意してあつた。
(チ) 若し「ベレー」の電話が間に合わないとすれば、被控訴人は度々控訴人方へ内容証明郵便を差出している事実に徴し急用の場合には電報を打てば直ちに連絡がとれる筈である。
(リ) 尚一六日の日曜日が満期日だとしても民法の規定上最終期日が日曜日等休日の場合は月曜日等翌日に延期することになつているから、当然月曜日に連絡すべきところ被控訴人は何等の手続をして居らない。
(ヌ) 加うるにその二日後である昭和三一年一二月一八日被控訴人が控訴人に宛てて差出した内容証明郵便によると(甲第四号証)、その要旨は一二月末日までに地上建物を完全に除去すれば直ちに登記手続に応じ約束通り代金を支払うと言つているから、仮りに一六日に面談しても右以上の話はでない筈であるからその時既に登記の実践の意思がないこと明かであり、従つて手続は事実上不可能であつた。即ち被控訴人が百方捜査したか否かに関係なく、被控訴人は控訴人の移転登記に応ずる意思がなかつたから、一六日被控訴人が控訴人に面接できたか否かは、本件解約の努力に関係がないと言うべきである(被控訴人が甲第四号証の如き主張をしたのは公正証書第二条を誤解したことに基くものであると思われる)。
(ル) 被控訴人は一六日控訴人を百方さがしたと言うが、仮りに百歩を譲り、控訴人が不在であり所在が不明であつたとしても手紙により連絡することができるし、「ベレー」の電話を利用することができ、更に債務履行の意思があればその翌日又はなるべく早く連絡することもできるし、或は法律上供託することに依つてその債務を履行することができる。
従つて被控訴人の百方捜査した旨の主張は、債務不履行の理由にはならない。
二、被控訴人は登記手続期限が昭和三二年一月末日であるから、それ以前の提供は履行期の徒過にならないと言うが、これは被控訴人の明らかな誤解である。即ち公正証書第二条に依れば所有権移転登記を為した時即日支払うとあり、公正証書第三条に依れば昭和三二年一月末日迄に抵当権を抹消し移転登記をするとあるから、此の期日の利益は登記義務者たる控訴人にあたるもので、昭和三二年一月末日まで買主の必要により登記をしなくてもいいと言う意味でないこと余りにも文章上明白である。
果して然らば第三条の全文の趣旨から見ても第三条は抵当権の抹消さえできれば何時でも移転登記ができると言うことであること明らかである。
只控訴人のため昭和三二年一月末日までは延引しても許されると言うことであり、抵当権が昭和三二年一月末日までに仮りに抹消登記ができないでもこの期限を徒過すれば、控訴人の履行遅滞になると言うことにすぎない。従つて昭和三二年一月末日以前でも抵当権が抹消されれば何時にても移転登記をなし、依つて公正証書第二条により代金支払期日を確定させることができる。
三、被控訴人は更に地上建物の除却は土地代金支払の先決事項であつて従つて代金支払義務の履行期は、(イ)控訴人が建物を除去するか、(ロ)又は建物の所有権が被控訴人に帰する以前には到来しないと言うか、
(1) 公正証書第二条及び第三条を前述の如く正しく読む限りこんな無茶な主張ができる筈がない。
(2) 即ち公正証書のどこを見ても建物除去を代金支払の条件にしたり建物を除却してから始めて登記をすると言うが如き文字は何処にも見当らない。
(3) 公正証書第四条は全く附帯契約であつて先決条項でない。公正証書はその体裁から見ても明白である如く土地の売買契約であつて建物の売買は含まれていない。
(4) 公正証書の売買は、土地の売買であるところ、たまたま地上に売主所有の建物が存在するため、買主はこれを買つて利用する必要がないので、地上建物は買わず、しかしこれを収去しなければ土地の引渡ができないので地上物件処理のため第四条の建物に関する契約をした。これ第四条が附帯契約であるという所以である。
(5) 従つて土地売買契約の内容中所有権移転登記及び代金の支払についてはこれを第二条及び第三条において定めこれとは別に第四条において地上建物の処理に関することを定めたものである。即ち売主において地上建物を昭和三一年一二月末日までに除去すること、若し期限までに除却しなかつた時は所有権を買主に移転して買主が任意処分することができるようにしたものである。
この際時に注意すべきことは地上建物は全然建物としての価値を認めず只土地の邪魔物である除却物件としてのみ認めていたことである。かかる意味においてこれを見れば当時一二月末日までに地上建物を除却するか否かは問題ではなかつた。換言すれば建物の除却は売主、買主何れでもいいと言うことである。
(6) 尚右地上建物は建物と言つても屋根と柱があるのみで壁がなくて住居できるものではなかつた。即ち便所、炊事場、電灯、ガス、水道等の設備が全くなく、現に何人も居住していなかつたものであるから、売主が取毀しても古材としても何かの利益があるに止り、買主が取毀しても損得ないと言う実状の建物であつた。従つて、第四条には買主に所有権が移転しても立退その他煩わしい問題の生じない単なる工作物であつた。
尚甲第一号証の売買契約書(全土地の最初のもの)を見ると一〇〇万円の手附金を払つて契約したのが昭和三一年三月七日残金は昭和三一年三月一七日登記申請と同時支払うことになつている。しかるに地上建物については特に「同物件地上にある建築物は向後二ケ月以内に当方(売主)において完全に除去する事、若し違反せる時は貴殿(買主)において自由に処分されても異議ありません」と明記しあり、当初から土地の売買と地上建物の処分とは全然別個に考え、しかも売主において除却しない時は買主において自由処分ができるように契約されていて後日に問題を残さないように配慮されている。
(7) 以上の事実並に証拠に依れば被控訴人主張の如く地上建物の除却が代金支払の先決事項であると言うが如きことは到底問題にならない主張である。
四、公正証書の契約が独立した契約であるか控訴人主張の如く甲第一号証不動産(五筆)の売買契約の一部であるかは本件の最も重要な争点である。
(1) 本来第一目録物件と第二目録不動産は一個の契約として売買せられたが、第二目録不動産についてはたまたま長谷川佐吉の根抵当権が設定してあつたためこのためにのみこれを後廻しにすることとし、昭和三一年三月三〇日特に公正証書を作成し、又これに基いて翌三一日控訴人より被控訴人に対し第二目録記載土地について所有権移転請求権保全仮登記権利の移転登記をなし同日故障のなかつた第一目録記載不動産については所有権移転の本登記を為し且つ代金の支払もしたが物件の引渡はしなかつた。
(2) 尚地上建物については(これは両方に跨つて建つているから別個に取扱うことが困難であり若し別個に売買をするとせば此の点に関する何等かの具体的取定めがある筈である)、第一目録土地の登記、代金支払に際しては何等の取りきめをせず、第二目録土地について特に公正証書を作つて建物除去のことを定めたものでこの地上物の関係から見ても第一目録第二目録各記載の土地を別々に売買したと認めることは失当である。
(3) 被控訴人は第一目録土地につづいては売買契約が完了したように主張するが、この地上には控訴人の建物が存在し且つこれが処分方についても何等の取りきめが為されていないのみならず、空地についての引渡も為されていない。かかる事実から見ても第一、第二目録各記載土地は一括一体の土地として売買せられており、只第二目録記載土地については長谷川佐吉の根抵当権が設定且つ登記がしてあつたからこの唯一の故障があつたため便宜上後からと言うことにしたものに過ぎない。
(4) 若しこれが別個の売買であるならば、何も他人の三〇〇万円もの抵当権がついている土地の売買をする必要は更になく抵当権が抹消されてからで十分でありかかる不完全な土地について仮登記権利の移転登記をする必要はない筈である。甲第一号証の五筆の売買土地の一部であればこそ、止むなく公正証書を作り罰則を定め且つ仮登記の移転登記までしたものであると見ることが取引の実情上当然である。
(5) 控訴人は不動産売買に経験のある鬼頭泰次に本案土地を売却したいと申入れた処鬼頭はこれを了承して電車通の角の処に其の広告を出して置いた処本件土地の内空地になつていた部分八〇坪について買主が出来控訴人は手付金を貰つていたが、後に被控訴人が鉄筋でビルを建てたいから本案全部の土地を買いたいと強いての申入があつたので鬼頭は控訴人の代理人として前の買主に一〇〇万円支払つて同人との売買契約を解除し被控訴人に全部の土地を一括売渡す事になつた。
(6) 地形からしても附帯控訴状貼付図面の如く一括してこそ整つた地形であるが、第二契約の土地を除いては甚だ奇形となり土地の価値も甚だしく減少する。斯る売買をする事は甚だ非常識な特異な行為で到底措信する事は出来ない。
(7) 代金を一方に於ては六〇〇万円と全代金を記載し一方に於ては其の一部を代金一、六六六、五〇〇円と記載し如何にも判然区別した様につくろつてあるが全代金の一部であるので適宜便宜上記載したのみでこの額は坪数に応じた額でもなければ一々区別した額でもない。
(8) 六〇〇万円の売買については一〇〇万円の手附金を授受したのみで違約金の規定はなく第二の契約については手附金の定めはなく全代金一、六六六、五〇〇円に対して違約金一五〇万円を規定している。右二個を併せて初めて一個の契約と見る事が出来る。
(9)1 甲第一号証は本件土地二三二坪六勺を一括一団地として代金六〇〇万円で売買している。
2 甲第二号証の公正証書にある土地は甲第一号証の土地の一部であるが、甲第二号証を作成するに際し別に甲第一号証の契約を訂正したり、更改したり、その一部について解約したことがないので従つて甲第一号証の一部につき更に別に売買契約を締結することができない、それは二重契約になるからである。
3 されば、甲第二号証の公正証書は甲第一号証の売買契約の存在を前提にして、これが履行について一部は内金を払つて登記を完了したか(占有の移転は未了中)その余の一部について第三者の抵当権設定登記があつたため、特に公正証書を作つて後日の受渡しにしたものと認めることが正しい。
只手続上登記未了の部分について恰も別個独立の売買契約であるかの如き外形を有する公正証書を作つたため誤解を受けることになつたものである。
4 若し甲第二号証の公正証書を以つて独立した売買契約であるとせば、
(イ) 甲第一号証の売買契約とその一部が重複することになり、
(ロ) 又地上建物の収去について公正証書は公正証書上の売買土地以外の別の土地上の建物についても契約したことになり、
(ハ) しかも、建物を収去しない場合における罰則として公正証書における売買土地以外の別の土地上の建物所有権移転のことをも公正証書上の契約で定めている。
これ公正証書の契約が甲第一号証の契約の一部であつて別個独立の契約でないことを裏書きするものである。
5 却つて、公正証書の契約条項に依れば公正証書の土地が甲第一号証契約の一部であればこそ、その履行を確実にする必要があつて残代金が一六六万余円であるのに対し、その不履行の罰則として全土地上の建物(二〇〇余坪)の所有権を移転する外に更に一五〇万円の殆んど売買残代金と同額の金を賠償することを定めている。
思うに六〇〇万円の契約の内、C、即ち公正証書分の不履行は買主にとつて使用目的から見て地形上又は必要坪数等の点から見て極めて不利益を被る惧れがあるので一五〇万円の損害金を支払う義務を負担させて履行を確実にしたものと認めざるを得ない。
これを常識から考えて見ても一六〇余万円の土地を売るのに何もわざわざ違約損害金として一五〇万円も払つてこれを売る必要はないのであろう。
6 又公正証書の売買が別個独立のものとせば当然取引の常識上手附金を支払うべきであるのに、甲第一号証には手附金として一〇〇万円を払つているのに、甲第二号証には一銭も払つていない。これ甲第二号証の売買土地が甲第一号証の売買土地の一部であることを示すものである。
7 更に本件甲第一号証の契約による二三二坪六勺の土地の地形は一括一団地としてこそ、間口一四間、奥行が西側一八間、東側一四間余であつて病院の敷地として一応適当であるが若しこの内から甲第二号証の五七坪六合二勺を除外すると(此の部分は違約により解約された場合当然二三二坪六勺より減坪されるがこのことは被控訴人において初めからわかつていたところである)残余の土地は一七五坪になつてしかも図面上明かなように間口が一〇間となり間口が三割近くも減り、奥の方においては更に不整形になつて土地の価格が著しく減損するのみならず病院の建設用地として用をなさないものになる。
因に被控訴人が本件土地を買つたのは同人が病院を建設するためであつて、この点は当時本件土地の一部が既に他に売約済であつたものをわざわざ解約して本件土地を一括して甲第一号証の契約にした事情からも明らかである。(鬼頭証人の証言参照)。
8 尚、甲第一号証の特約を見ると当初よりC土地五七坪については抵当権設定等の特別の事情があつたため「関係書類の権利を基の儘引渡す」とあつて初めから全部一括して一度に処理できないことが判つていた。そして、この特約の延長が甲第二号証になつた。これに依つても甲第二号証が甲第一号証の特約の延長的補充契約であることが明かである。
9 又代金の計算から見ても甲第一号証の契約は一括して坪当りの価格に依らず六〇〇万円となつて居るがこれを二つの契約だとすると両者は単価が違うに拘わらず両者を合せると結局六〇〇万円になつている此の点から見ても両者は一個の契約であると認めざるを得ない。
10 甲第一号証の売買契約の履行について甲第二号証の土地に該当する部分については昭和三一年三月三〇日甲第二号証の公正証書を作つてまず特約事項の中間的解決をしておいて、その翌三一日Cの土地の部分については所有権移転登記の代りに日比野の訴外長谷川佐吉に対する停止条件付所有権移転登記請求権保全登記を被控訴人に対して権利譲渡して被控訴人に対する後日の所有権移転登記を確保し、その余の土地については所有権移転登記を了したものである。
しかも右売買土地の引渡については特約部分の所有権移転登記が未了であるため登記完了の部分についても、その占有の移転は一括土地の売買である関係上、これを為さずCの土地の手続完了と同時に引渡すことにしたものであつて此の点から見ても本件は一個の契約であることが明かである。
11 甲第一号証の土地売買契約は所有権の移転を伴う物権契約を包含するものであるから一旦売買の契約をした以上これを取消すなり解約しない限り同一土地について更に之を二重に売ることは法律上不可能であるところ、甲第一号証の契約について之を訂正した事実がどこにも存しないから、此の点からも二個の契約が存しないこと明かである。
かくて甲第二号証の契約は甲第一号証の一部であり、甲第一号証の特約の延長であり補充的且つ手続的なものであると言うことができる。
12 甲第二号証の公正証書は単に第二目録記載土地(訴状)の売買契約のための証書ではなくして第一目録土地(訴状)の引渡しに関することも合せて契約したものである。
従つて此の意味からも甲第二号証は甲第一号証の補充契約であると言うことができる。
13 第二目録記載土地(C土地)には公正証書作成当時訴外長谷川佐吉の東海銀行に対する債務額三〇〇万円の抵当権が設定されていたこと登記簿上明かであるが、かかる負担附きの土地について被控訴人はこれを代金一六六、五〇〇円で買う契約をしたと言うが、若しこの土地が別個独立の土地であるならば何もわざわざ抵当権の登記のある内に、買う契約をする必要がないのではないか。これ全く此の土地が甲第一号証全土地の一部であつてしかもA、B、D、Eの一括一団地でなければならない事情下にあつたから抵当権の抹消されていないのに買う約束をしたものである。
従つて、C土地を独立の契約対象にすること等は当時の情況として当事者間に全く考えられなかつたことである。即ち、第二目録記載C土地は当時甲第一号証から、独立して売買契約をする余地のなかつたものである。
五、被控訴人がかれこれ言を左右にして代金の支払を怠つたのは、被控訴人が資金に窮していたからである。
即ち被控訴人提出の乙第一号証の一に明かな加く被控訴人は昭和三一年一二月一〇日控訴人に支払う事の出来る現金と見るべき予金は僅か六六五、五九〇円に過ぎない。残額一〇〇万円並に諸費用は全然不足している。同書に一〇〇万円の無記名定期予金ある旨記載されているが無記名のものが被控訴人の予金と見る事が不自然で誰の予金か判らない見せ金と同様である。
仮りにそうでなくても定期予金であつて直に現金として受出し出来るものでなかつた。
乙第一号証の二は本件には関係がない。(一二月中の問題で一月の問題ではない。)
六、建物除去は必ずしも控訴人の義務と許りでなく、むしろ一二月中に取り払う時は其の材料は控訴人のものになると云う権利でもある。
即ち甲第一号証の契約書には二ケ月間に取除かない時には被控訴人に於て自由に処分するとあり、甲二号証の公正証書には昭和三一年一二月末日迄に除去しない時は建物の所有権は被控訴人に移転するとなつている。即ち裏から云へば期日までに控訴人が除去して処分する権利がある事になる。期限までに除去出来なければ被控訴人の所有になると云うのである。
本件建物は当時は移築した許りの骨組の状況で取除するには簡単であつたから取除建物の価値は充分にあつた。
従つて控訴人の建物除去義務は本件契約より生ずる控訴人の重大な義務と見るよりも寧ろ其の時期までに取去る権利であると見られる。
其期間が過ぎれば建物の所有権が被控訴人に帰属するので此の義務を同時履行の資料に供するのはおかしい。
(三) 控訴人が昭和三一年一二月九日所有権移転登記手続の準備が完了していた。
一、控訴人は本件土地(C)を昭和三〇年一一月一五日長谷川佐吉より交換により所有権を取得している。(甲第二一号証)この事実は甲第二号証公正証書第三条にある通り長谷川佐吉を前所有者と言つていることから被控訴人もこれを知つている。
二、控訴人は甲第二号証公正証書第三条の約束により昭和三一年一〇月七日長谷川をして本件物件上にある三〇〇万円の根抵当権設定登記を抹消させ、翌八日抵当権が抹消された事実を証するため何等の担保権設定登記のないことを証するに足る甲第二二号証の登記簿謄本をとつて、これをその翌々日である一〇月九日に被控訴人に提示して所有権移転登記の準備ができた旨を通告し且つ登記手続の協力を求めた。(この謄本には有効の部分のみが記載されていたため素人目には抵当権抹消の事実関係が判らないように誤解されたかも知れない)。
三、所有権移転登記に必要な書類は
イ 登記申請書(甲第二四号証の一)
ロ 委任状 (甲第二四号証の二)
ハ 印鑑証明書(甲第二四号証の三)
ニ 権利証人又は登記義務者の人違いのない保証書(甲第二三号証)
ホ 不動産売渡証書(甲第二五号証)
の五通であるが、右の内イの登記申請書は当日司法書士が作成するものであるから必ずしも予め作成しておく必要はない。従つて此の書類がないことは準備の不足にはならない。
尚権利証は必ずしも必要書類ではなくこれに代えて保証書を利用することができるか、本件の場合には既に先の登記手続に際し権利証の代りに保証書(甲第二〇号証)を利用したから当然登記手続の代理人である司法書士西尾博雄が保証人になつて貰えることが明かであるから、これも登記申請書と同様に即日作成できる実情上、これも予め準備する必要がない。
従つて控訴人が売主として予め準備すべき必要書類は前記ロの委任状、ハの印鑑証明書、ホの長谷川佐吉名義の不動産売渡証書の三通に限られる。
四、されば、乙第三号証の一の仮登記抹消の委任状は仮登記権利者が被控訴人である関係上被控訴人を買主とする所有権移転には必要のない書類であり、乙第三号証の二の不動産売買契約書は本件土地(C)の所有権が既に昭和三〇年一〇月二六日控訴人に移転していることを証するもので、前記第三項ホの売渡証書がある以上、登記手続上乙第三号証の二に買主が控訴人となつていても何等差支はない。
五、控訴人は前述の如く必要書類を準備し少く共長谷川佐吉名義である点及長谷川佐吉のために存する抵当権等第三者の行為を要するが如き負担関係の抹消については完全に解決して居り、被控訴人さえ協力すれば何時にても直ちに且つ容易に移転登記手続ができる準備が出来ていた。
しかるに登記がされ得なかつたのは一にかかつて被控訴人の受領遅滞に因る
六、従つて甲第二号証の公正証書第三条に基く控訴人の被控訴人に対する所有権移転登記義務は有効に提供済であるから右公正証書第二条の登記は現実にはなされていないが、被控訴人は受領遅滞の責任上代金支払の義務を生ずるに至つた。
(四) 控訴人は被控訴人に対して昭和三一年一二月一〇日不動産売買契約書停止条件付所有権移転請求権保全仮登記抹消承諾書土地謄本土地譲渡契約履行催告書を使者をして届けさせて本件履行即ち登記移転と残代金支払を同年一二月一六日迄に履行する様催告させた(甲第七号証の二参照)。
従つて、何れにせよ控訴人は数次にわたり適法な提供をなしたので、被控訴人は同時履行の抗弁を主張できない。
(乙) 被控訴代理人の答弁
一、控訴人の(一)の項について
被控訴人は昭和三一年一二月九日以降同月一三日まで履行の提供を誠意を以て行つた旨縷々陳述しているけれども、被控訴人はこれを否認する。控訴人の所謂履行の提供とは、被控訴人の最大関心事であり、本件土地売買契約の目的を達するための要素である地上建物の除却については除却の用意即ち着手の時期方法等にふれず、がむしやらに代金請求のみを怒号し被控訴人を困惑に陥れ本件土地売買契約の解除を意図した極めて悪らつな計画的行為であり、法律的知識に乏しい被控訴人をわなにかけるため、用意周到に企劃された策略である。右経過については甲第三号証乃至甲六号証の一、二により明らかであるが、本件土地売買契約締結の時における控訴人と、右一二月九日以後の控訴人とは、全く人が変つたような態度であつて、被控訴人のような世事にうとい医師としては全くほんろうされて了つたのが真相である。そもそも控訴人が本件履行の提供に当つて、何が故に使者をつかい且甲第七号証の一、二の如き書面を作成したかである(甲第七号証の一、二は被控訴人は見たことも受取つたこともなく本訴において始めて知つた)。しかも使者が置いて行つた乙第三号証の一、二は長谷川の所有権移転登記に要する委任状も印鑑証明もなく、被控訴人としては半信半疑である。
控訴人は前記一二月一一日の「数時間の面談にかかわらず(被控訴人が)言を左右にして控訴人の申出にかかる所有権移転登記に対する協力をしなかつた」旨主張((一)の四項)しているけれども、同日控訴人は被控訴人が係争不動産の登記簿謄本を一回見せてくれと頼んだ(原審第一五回口頭弁論期日における被告本人尋問調書参照)のに対し、人を侮辱しておると故意に興奮威嚇するのみにて数時間の面談どころではなかつた。
履行の提供は債務の本旨に従つて誠実に為されなければならない。控訴人は前叙の如く被控訴人が世事にうとく開業医として連日診察、手術、健康保険の整理等にてひまがないこと(毎日夜一二時まで保険関係の整理をしている)を承知の上且被控訴人が先づ地上建物の除却後一ケ月内に代金を支払うものと確信していることを百も承知で、所謂三百代言式理論を考え遮二無二代金請求を迫り、被控訴人が控訴人に対し話合により解決しようとすると行方をくらまして了つたのが真相であり、控訴人のその所謂履行の提供なるものは、信義誠実の原則に反し到底適法なものとは云えない。被控訴人は本件係争の第二目録記載土地代金の支払の如きは何時でも出来る貯金を有しているものであつて、信用の点で何等疑われる余地もないし、かつてABDEの土地代金をその土地の使用収益もしない状態で完全に支払つているのである。
契約条項の解釈は具体的妥当性を有しなければならず、それによつて正義と衡平が実現され且社会秩序が維持されるのであつて当事者は往々形式的且局部的な法の解釈により自己の利得を追求せんとするものであるから、この点につき特に本件甲第二号証の公正証書の当事者の意思解釈について本件土地上の建物の除却又は被控訴人への所有権の完全帰属が登記先決条件であることを主張する。
二、同上(二)の項について
控訴人の主張は形式的且局部的見解であつて、本件第二目録記載土地に関する控訴人の主張については被控訴人はすべて争う。又代金を完済し且登記を了した第一目録記載の土地につき控訴人は甲第二号証の契約の解除により全部解除されるが如く主張しているけれども、土地所有権は代金の完済及登記の移転により被控訴人に完全に帰着して了つて、控訴人の右土地明渡義務のみが残余している(即ち被控訴人は控訴人に対し明渡を猶予していたに過ぎない)のであつて、甲第二号証の契約によりこの売買契約を解除することは法的に不能である。
三、原判決添付第二目録記載土地の売買代金の支払が登記と引換即ち同時履行であるとするならば、控訴人は被控訴人の登記と引換に代金を支払うという所謂同時履行の抗弁権を排除しなければ右土地売買契約を解除することはできないところ、控訴人は被控訴人の右抗弁権を排除するに足る履行の提供をしていないから、控訴人の主張する契約解除はその効力を発生するに由ない。即ち控訴人は登記の準備ができたと称する口頭の提供をしたと主張(この自由を援用する)し、本件売買については民法第四九三条の債務の履行につき債権者の行為を要するときに該当すると主張しているのであるが、登記義務のように一定の場所に相会して履行すべき債務については、たとえば債権者の指定する地上に建物を建築すべき債務の如く債権者の協力がなければ履行行為に着手できない場合と異なり登記所に赴くことを必要とし単なる履行の準備を超えて履行の意思の実現即ち履行行為の着手が要求されるのであつて従つて現実の提供でなければならない(大正七年八月一四日大審院判決参照)。控訴人は登記義務履行の準備としては不完全な書類を被控訴人に示し半信半疑であり且地上建物除却(仮に地上建物の除却又はその所有権の被控訴人への帰属が本件売買代金支払の先決事項でなく被控訴人の誤解であるとしても)についての先入感を納得させる努力をせずその先入感(前記の如く被控訴人の誤解であるなら誤解)に乗じて口頭の提供をしたに過ぎなく、更に被控訴人は病院を経営し資産も十分あり金銭的支払については十二分に信用があるのであつて逃げもかくれもしない立場であるに反し、控訴人は昭和三一年一二月一五日附内容証明郵便(甲第三号証)発送後被控訴人の前より行方をくらまして了つた(甲第六号証の一参照)。
凡そ争いある履行行為、その準備行為及これに応ずる債権者の協力の程度等は取引慣行と信義則とによつて具体的に判断されなければならないが、控訴人は先づ履行の提供において不十分であるのみならず、その方法においても著しく信義則に反し控訴人を困惑させて到底適法な履行の提供があつたといえない。被控訴人が甲第六号証の一により履行の催告をしても控訴人は解除を主張してこれに応じなかつたことは洵に遺憾である。控訴人の解除の意思表示は信義則に反する無効の行為である。
四、被控訴人は控訴人との間に昭和三一年三月七日甲第一号証の契約により別紙(二)第一及第二目録記載の土地(原判決第一目録及第二目録記載の土地)を代金六〇〇万円にて買受けたのであるが、右契約によれば右土地のうち別紙(二)第一目録第二記載の土地(五番)及別紙(二)第二目録記載の土地(四番の一)上に別紙(二)第三目録記載の建物(当時は荒壁程度で畳建具なく無住の建物)が存在していたので、控訴人はこれを二ケ月以内に除却することを約しており、又右契約による売買土地の受渡は同年三月一七日となつていたのである。然るに右受渡期日は当事者双方の合意の上延期され同年三月三一日に至り別紙(二)第二目録記載土地の売買を分離し別紙(二)第一目録記載の土地につき代金授受を為した上その分につき所有権移転登記を完了した(甲第八号証の一乃至四参照)。然るに前叙の如く別紙(二)第一目録第二記載の土地上には別紙(二)第二目録記載土地の双方に亘り別紙(二)第三目録記載の一個の建物が存在していたので、甲第二号証公正証書による別紙(二)第二目録記載土地売買契約の際右第一目録第二記載土地(六番)上の建物部分も第二目録記載土地(四番の一)上の建物部分も同時に除却すれば被控訴人としては差支えないと考え、前記第一目録第二記載土地上の建物部分の除却明渡を猶予する意味において甲第二号証公正証書による売買契約第四条の約定を為したものであつて、これがため第一目録記載土地売買が第二目録記載土地売買と一体不可分となるものでない。
五、控訴人は本件Cの土地については甲第二二号証をその公判廷で提出するまで秘匿していたものであつて、Cの土地売買契約に際しても代物弁済予約の仮登記の存することのみを知らせ、長谷川の所有権譲渡の承認を求める被控訴人の申出を峻拒し、単に乙第三号証の一、二を見せたに過ぎない。
而して控訴人が被控訴人に提供したと称する本件Cの土地所有権移転登記に要する書面なるものは乙第三号証の一、二のみで長谷川の印鑑証明、委任状は全くなく見せたこともなかつた。(原審被告本人尋問調書参照)従つて控訴人がCの土地所有権移転登記に必要な書面を完備して被控訴人に提示した事実は全くない。
六、甲第二号証の如何なる条項からもC以外の土地売買契約を解除する旨の解除権留保は認められない。
甲第二号証において手附金が約定されていないことはC以外の土地代金が完済され被控訴人に信用があつたことと本件Cの土地との交換物件(甲第二二号証記載により被控訴人は始めて明確に知つた)が当時としては全く無価値(乙第五号証参照)であつて今にして思えば控訴人に自信がなかつたためと思われる。Cの土地とC以外の土地代金の単価に差はないのである。従つて仮にABCDEの土地全部を一個の不動産として売買され且買主はこれを一個の不動産として使用収益をする目的を有したとしても、それはあくまでも買主の利益であつて、その一部の故障により買受の目的を達しない場合に買主に一部を解除するか全部を解除するかの選択権があるに過ぎないのであつて売主にかかる権利はあり得ない。
七、控訴人が長谷川に交換物件として交付すべき物件は訴外中部電力株式会社より収去の訴を提起され且仮処分中の物件であり控訴人は封印破毀を犯して長谷川に譲渡したもので控訴人はこのため有罪の判決を受けているのみならず、Cの土地の仮登記は交換による所有権移転請求権保全の仮登記とすべきにかかわらず長谷川が控訴人から金二〇〇万円を借りているような虚偽の記載を為し公正証書原本不実記載の疑が持たれる。交換物件としては甲第二号証に明らかな如くむしろ控訴人が長谷川に渡す物件の方が無価値であること一見明瞭でありむしろ控訴人が二〇〇万円位を長谷川に提供すべき筋合といえる。乙第五号証によれば判決は昭和三二年三月一九日であり本件係争の昭和三一年一二月中には未だ交換物件(示談金)が長谷川に帰属するに由ない時期である。
何れにしても控訴人から被控訴人に移転された仮登記というものは長谷川の承諾もなくわけがわからない性質のもので、これを以てしてもCの土地については控訴人が被控訴人の法的知識にうといことに乗じた一種の謀略であることが窺われる。被控訴人としては、控訴人が自発的にCの土地所有権を被控訴人に移転することを期待している次第である。
(丙) 控訴代理人の再答弁
一、被控訴人の答弁一、二について
控訴人が昭和三一年一二月七日第二目録記載土地の根抵当権設定登記の抹消登記を得、同月九日より同月一三日に至る間数次にわたり直接又は神取すみ子を使者となし、惑は電話で被控訴人に対し或は乙第三号証の一及二を寄託し或は甲第七号証の一及二を提示し同月一六日迄に右土地の所有権移転登記手続の協力方を求めた。控訴人は昭和三一年一二月九日より同月一三日に至る間数回に亘り履行の提供をなしたものであり、その間ただ残代金が必要なるため恥辱を忍び、恨を呑んで再三再四残代金を支払われるよう懇請したのである。
これに対し被控訴人は居丈高に控訴人を罵倒し、控訴人の誠意を疑い且つ残代金支払とは何等の関係のない第三目録記載家屋の収去を要求し殊更に事態を紛糾せしめたものである。従つて被控訴人が前記行為に対し悪辣な計画的行為等と批難するのは誤解も甚しいものであり、控訴人の理解に苦しむ主張である。被控訴人が真実第二目録記載土地代金を支払う貯金があつたならば何故控訴人の移転登記手続に協力しないのか、又何故法律知識に乏しいと言う被控訴人が前記建物の収去を要求したのかこれら被控訴人の前記九日より一三日迄の態度こそ信義則上大いに批難せらるべきであり、本件土地売買契約解除の責任を被控訴人は当然負うべきであると思料する。
二、被控訴人の答弁三について
(一) 被控訴人は大正七年八月一四日大審院判決を引用して控訴人が被控訴人を履行遅滞におちいらしめるには現実の提供を要する旨主張する。
しかしながら元来登記義務が民法第四九三条の「債務ノ履行ニ付キ債務者ノ行為ヲ要スルトキ」に該当するかどうかについては判例も一定していない。
例えば大正五年九月一二日大審院判決は「……当事者の一方が相手方に対し斯る(中間省略による所有権移転)登記を為すに必要なる準備を為したることを通知して催告したるときは弁済の提供として有効なること論を俟たず」旨判示する。
又前掲大正七年八月一四日大審院判決等(現実の提供を要する旨判示した判決)の各事案は本件の如く登記をなすべき日も又その場所も確定していないという場合でない。何れも登記をなすべき日が予め確定しており、しかも当日所轄登記所に於て売買代金を授受すべく約定せられた場合の判決であつて本件には直ちに類推し得ない。
元来民法第四九三条但書に於て「債務ノ履行ニ付キ債権者ノ行為ヲ要スルトキハ弁済ノ準備ヲ為シタルコトヲ通知シ其受領ヲ催告スルヲ以テ足ル」と規定しているのはただたんに債務者が弁済の提供に着手しえないことを慮つたものでなく債権者側に於ても債務者が直ちに履行に着手すべき準備を完了しているかどうか全然わからないので債務者からその準備完了有無の通知をなさしめることにしたのである。即ち一面に於ては債権者の利益を考慮しているものである。
本件に於ても控訴人は昭和三一年一二月九日被控訴人に対し長谷川佐吉の根抵当権設定登記の抹消登記ができ、何時にても移転登記手続をなし得る準備が完了した旨通知している。しかし若しこれが現実の提供で足りるのであれば被控訴人としてはどういう方法で控訴人の右移転登記の準備完了の有無を知り得るのであろうか。
しかも又控訴人としても一体何時、何処へ出頭すれば現実の提供となるというのであろうか。
これ等の点を考慮すれば結局本件の如く確定的な弁済期の定めなく且つ弁済場所も指定せられていない場合に於ては前掲大正五年九月一二日大審院判決の如く控訴人が被控訴人に対し移転登記を為すに必要な準備を為したることを通知してその受領を催告すれば弁済の提供としては有効となると解すべきが正当であり、被控訴人の現実の提供を要するとなす主張は正しくない。(同旨柚木馨債権総論下巻二一五頁)
(二) 控訴人のなした昭和三一年一二月九日、一〇日、一一日の各この口頭の提供で不充分であり現実の提供を要するとしても被控訴人は右三日間に亘り控訴人に対し移転登記手続に協力することを拒んできているのであつて、右九日以降は民法第四九三条但書にいう「債権者カ予メ其受領ヲ拒ミタル」ものとして口頭の提供で足る。
しかも控訴人は一一日以降も甲第三号証や甲第七号証の一に明かなとおり口頭又は書面により履行の提供をしてきている。
(丁) 被控訴人の附帯控訴の理由
(一) 甲第一号証の契約により完了した第一目録記載土地のうち同目録第一記載の土地(六番)は完全な空地であつたもので、被控訴人は直にこれを使用収益ができるところ、控訴人は昭和三一年一二月一九日の経過とともに売買契約が解除となつたと一方的独断的主張をなし、被控訴人の右土地の使用収益を否定するため被控訴人は使用収益を妨害され控訴人に対し次の通りの地代相当損害金請求権がある。
即ち右第一目録第一記載の土地(六番)は仮換地にて公簿面上八四坪六合実測八五坪六合二勺であるが少い公簿面の坪数に従い且原審鑑定の結果によるときは一坪当りの地代は昭和三二年度九〇円、昭和三三年度一〇五円、昭和三四年度一二〇円、昭和三五年度一五〇円、昭和三六年度二四〇円であるから、被控訴人は控訴人が右六番土地の被控訴人の所有権を否定した前記昭和三一年一二月一九日の後である(1)昭和三二年一月一日以降同年一二月末日まで毎月坪当九〇円、八四坪六合にて金七、六一四円一二ケ月間にて合計九一、三六八円、(2)昭和三三年一月一日以降同年一二月末日まで毎月坪当一〇五円、八四坪六合にて金八、八八三円、一二ケ月間にて合計一〇六、五九六円、(3)昭和三四年一月一日以降同年一二月末日まで毎月坪当一二〇円、八四坪六合にて一〇、一五二円、一二ケ月間にて合計一二一、八二四円 (4)昭和三五年一月一日以降同年一二月末日まで毎月坪当一五〇円、八四坪六合にて金一二、六九〇円、一二ケ月間にて合計一五二、二八〇円、(5)昭和三六年一月一日以降昭和三八年六月三〇日まで毎月坪当二四〇円、八四坪六合にて金二〇、三〇四円、三〇ケ月間にて合計六〇九、一二〇円、以上(1)乃至(5)合計一〇八一、一八八円、及これに対する附帯控訴状送達の翌日以降完済に至るまで年五分の法定利息に相当する損害金の支払を求め更に昭和三八年七月一日以降右六番土地明渡済に至るまで毎月坪当二四〇円、八四坪六合にて二〇、三〇四円の割合による金員の支払を求める。
(二) 次に別紙第一目録第一記載の土地(六番)については昭和三三年六月三日名古屋地方裁判所昭和三三年(ヨ)第四六五号仮処分決定の執行の際完全な空地であつたが、その後控訴人は右地上に別紙第四目録記載の建物を執行吏の許可なく建築しているからこれが収去を求める。
(三) 被控訴人は控訴人との間において甲第二号証公正証書により別紙第二目録記載の土地を買受けたところ、控訴人は被控訴人の世事にうといのに乗じ、被控訴人が右売買代金弁済の先決条件である同地上建物の除却について控訴人と話合をしようと考えているうちに控訴人は一方的に右売買契約を解除したと称し、支払能力を一二分に有する被控訴人の登記と引換の代金弁済を拒否して了つた。
そして右不動産については乙第二号証の二記載の通り長谷川佐吉の控訴人に対する停止条件付所有権移転登記請求権保全仮登記を右売買契約の翌日被控訴人に対し移転の附記登記をしたけれども、控訴人は右長谷川に絶対秘密にせよと称し面会を許さず遂に右移転につき長谷川の承諾を得られなかつたのみならず、右仮登記により保全される請求権に付せられた停止条件は全く虚構(甲第二一号証を参照すれば明瞭)であることが判明したので、右仮登記順位により代金引換に本登記を右長谷川に請求することは法的に不能である。然るに控訴人は昭和三一年一二月一八日名古屋法務局古沢出張所受付第二一七七四号を以て自己に右不動産の登記を移した上、昭和三二年三月二三日右出張所受付第五〇〇〇号を以て村上正一に対し売買予約による所有権移転請求権保全仮登記を了した。
よつて被控訴人としては控訴人が自ら本件土地につき他に売買予約を為し履行不能にしたものであるから、これを理由に第二目録記載土地売買契約解除の意思表示を為すものである。
控訴人は自己に右土地の所有権移転登記を受けながら約に反して他に売買予約を為し売主としての義務に違反したものであるから甲第二号証の第八条により損害賠償の予定金一五〇万円及これに対する控訴人が自ら履行を不能ならしめた昭和三二年三月二三日の仮登記の翌日たる同年同月二四日以降完済まで年五分の法定利息に相当する遅延損害金の支払を求める。
(四) 前叙の如く被控訴人は第二目録記載の土地売買契約を解除したから、別紙第三目録記載の建物の除却に関する控訴人と被控訴人との間の契約(甲第二号証第四条)も解除され、被控訴人の右建物取得もなかつたこととなるから、五番土地上の右建物部分即ち別紙図面イロハニホヘイの各点を連結した線によつて囲まれる建坪七二坪二合六勺外二階七二坪二合六勺については控訴人は甲第一号証の売買契約第三項の契約日(昭和三一年三月七日)より二ケ月以内即ち昭和三一年五月七日までに除却すべき義務があるからその収去と第一目録第二記載土地(五番)の明渡を求める。
(五) 本件土地は別紙(二)図面記載のとおりである。
よつて被控訴人は控訴人に対し前記(一)の金一〇八一、一八八円及(三)の金一五〇万円合計二五八一、一八八円並に内一五〇万円に対する昭和三二年三月二四日以降、残額金一〇八一、一八八円に対する附帯控訴状送達の翌日以降各完済に至るまで年五分の割合による金員の支払を求め、更に前項(一)記載の通り第一目録第一記載土地(六番)の明渡と昭和三八年七月一日以降右土地明渡済に至るまで毎月金二〇、三〇四円の割合による金員の支払を求め、且(四)記載の通り第三目録記載の建物部分の収去及第二目録第二記載の土地の明渡を求める。
(戊) 控訴人の附帯控訴理由に対する答弁
(一)一項主張は控訴人の契約解除が無効であることを前提とするものであるから全部否認する。
(二)二項を否認する。
(三)被控訴人は三項において「訴外長谷川佐吉の控訴人に対する停止条件付所有権移転登記請求権保全仮登記により保全される請求権に付附せられた停止条件は全く虚構(甲第二一号証)である」と言う趣旨の主張があるから、此の点につき当時の事情を明かにする。
仮登記が形式上事実に符合しないことは認める。これは日比野信夫が甲第二一号証により訴外長谷川佐吉との間に長谷川所有名古屋市中区葉場町三八番の一一宅地一七〇坪同町二三番の二宅地一二五坪四合六勺、同区向田町一五九番宅地一六〇坪七合九勺(以上本件土地)と日比野信夫所有名古屋市中区広小路通六丁目八番地上建物家屋番号第一三番、木造亜鉛メツキ鋼板葺二階建店舗建坪二四坪、外二階二四坪と交換することについて、
当時右長谷川所有土地中向田町一五九番宅地一六〇坪七合九勺について長谷川を債務者とする金三〇〇万円の抵当権の設定登記がなされてあつたためこれが抹消をなし完全な土地にしてこれが所有権移転登記をすることを確保担保するために、
正しくは所有権の移転本登記をなし単に三〇〇万円の抵当権抹消の確保のみすればよかつたものを、
法律に無智であつた関係者は誤つて抵当権のある内は所有権移転本登記ができないものと思い誤り、只仮登記のみができるものと即断してしかも仮登記手続の意味を誤解して、仮登記をするためわざわざ実際には存しない二〇〇万円の抵当権の設定登記をなしこれに附加して前記の様な「停止条件付所有権移転請求権保全仮登記」の手続をしたものである。
従つて、前記の意味においては抵当権設定登記は虚偽であるけれども交換契約が実存する関係上所有権移転請求権の存在することは事実であるからこの意味において「所有権移転請求権保全仮登記」は有効である。
尚、被控訴人は乙第二号証の二に存する昭和三一年三月三一日日比野から森に対する前記仮登記の譲渡についてこの譲渡を長谷川に対し絶対に秘密にせよと言つたように主張するがこれは甚しい誤解である。
即ち日比野と長谷川間の仮登記は当時の手続上長谷川佐吉の履行期は昭和三一年一〇月二六日である故、森がその期日前に長谷川の所有権移転登記手続の承諾書を取つて欲しいと要望されたが長谷川には一〇月二六日までは権利があるわけだから、今頃そんなことを申出ることができないと言う趣旨から、長谷川に何かと言つて貰つては私の顔が立たないと言つたのみで何も秘密事項でないことは甲第二一号証から見ても明かな事実関係である。
前記の実情が真実であることは乙第二号証の二の登記簿謄本により昭和三一年一二月になると抵当権が完全に抹消されて日比野に対し完全に所有権が移転されてその登記が完了していることからも立証できるところである。
被控訴人は控訴人が本件土地を他に移転するため訴外村上正一に対し売買予約の仮登記をしたことを非難して居るが、被控訴人に対する甲第一号証の売買契約は有効に解除されているので、控訴人が右不動産を処分することは全く権利行為であり任意であるから、附帯控訴人に彼是言われる理由は何等存しない。
従つて此の点に対する被控訴人の主張は失当である。
(四)四項を否認する。
(五) 別紙添付図面中乙、丙の建物は控訴人の所有であつて、甲、乙、丙建物の所在関係は同図面のとおりであることを認め、本件土地が同図面に記載のとおりであることは争わない。
(己) 証拠(省略)
理由
当審が控訴人の本訴請求を棄却し、被控訴人の附帯控訴請求の一部を認容する理由は、左記に附加訂正する外、原判決の理由と同一であるから、ここにこれを引用する。
(一)、控訴人は代金六〇〇万円の残金一、六六六、五〇〇円(もつとも、被控訴人は残代金である点を争う)を払わないことを事由として別紙(一)第一、二目録記載の土地売買契約を解除する旨主張するが、控訴人として代金の一部不払によつて、代金全額の支払を受けられない以上、本来の契約目的を達することができないという要件を具備しない限り契約全部を解除できないと解されるから、この要件について考察する。本件売買契約は数箇の不動産を目的とするものであつて、控訴人は「地上建物は全然建物としての価値を認めず只土地の邪魔物である除却物件としてのみ認めている」と主張することから数箇の土地にまたがる地上建物の存在により数箇の土地を不可分とする特約を認められないばかりか、控訴人は既に右第一目録の土地について売買代金六〇〇万円の中四、三三三、五〇〇円の授受を終りその所有権移転登記手続を終了し、第二目録記載の土地については公正証書を作成して後日の手続に待つたと主張するのであるから、第一目録の土地と第二目録の土地とを不可分とする特約が認められない。控訴人としては右要件を具備しないから右土地全部の契約を解除ができない。控訴人主張の契約全部解除が効力がないことは、明白である。(併し一方本件土地全部の中一部解除が可能かどうか。可能とすると、どの範囲で分割解除されるべきかの問題がある。既に右第一目録の土地については、履行が終つて居り、同土地だけでは控訴人の契約目的を達することができない特別の事情が認められない本件では、控訴人から、同土地の売買を解除できない。第二目録の土地の解除については後述する。)
(二)、甲第一〇ないし第二六号証、当審証人日比野秀子、日比野とき、井上忠雄、田中松二の各供述、当審での控訴人本人尋問の結果は、原判決採用の証拠、当事者間成立に争のない乙第五号証の記載、当審における被控訴人本人尋問の結果に照らし、控訴人の主張を認容する資料とならない。
(三)、別紙図面中乙、丙の建物が控訴人の所有であつて、甲、乙、丙の建物の所在関係は同図面のとおりであることは控訴人の自認するところであり、本件土地が同図面記載のとおりであることは、控訴人の争わないところであるからこれを自白したものとみなす。
控訴人が昭和三一年一二月一九日の経過とともに本件売買契約が解除となつた旨主張していることは本件記録上明白なことであつて、被控訴人がその日以後右により別紙(二)の第一目録第一記載の土地(六番)の使用収益ができなくなつたことは、原判決採用の証拠並に当審での被控訴人本人尋問の結果によつて認められるから、被控訴人は控訴人の使用妨害により地代相当の損害を受けた。原審鑑定人早川友吉の鑑定の結果により、被控訴人主張の損害額が認められる。従つて控訴人は一、〇八一、一八八円及びこれに対する本件附帯控訴状送達の翌日であること本件記録上明白な昭和三八年七月四日から完済まで年五分の法定利率による遅延損害金と、昭和三八年七月一日から右六番地明渡まで毎月二〇、三〇四円の割合による損害金を支払う義務がある。附帯控訴趣旨において昭和三八年一月一日から請求しておるが、同日から同年六月三〇日まで請求が重複するので、これを排斥し、右昭和三八年七月一日から認容する。当事者間成立に争のない乙第六号証の記載によると、昭和三三年六月三日名古屋地方裁判所昭和三三年(ヨ)第四六号仮処分決定の執行の際、右六番が空地であつたことが認められる。控訴人はその後建てられた同地上の別紙(二)の第四目録記載の建物を収去して同土地を明渡す義務がある。
長谷川佐吉の控訴人に対する停止条件附所有権移転登記請求権保全仮登記は実際には存しない二〇〇万円の抵当権の設定登記をなしこれに附加してなされた形式上事実に符合しない仮登記であることは、控訴人の自認するところである。同自認事実に当事者間争のない公正証書(甲第二号証)による売買契約の翌日右仮登記について被控訴人に対し移転の附記登記をした事実、当事者間成立に争のない甲第二一号証、乙第二号証の各記載を綜合すると、右仮登記により保全される請求権につけられた停止条件が事実のない虚構であつて、控訴人はその上、昭和三一年一二月一八日自己に右不動産について売買を原因として所有権移転登記をなし、昭和三二年三月二三日村上正一に対し売買予約による所有権移転請求権保全仮登記をなした事実を認定できる。従つて被控訴人としては右仮登記順位により代金引換に右長谷川に本登記を請求することが出来ないばかりか、控訴人に対しても前記認定の諸事実に控訴人の主張する解除の意思表示がその後の控訴人の履行を拒絶することを通告するもので、村上正一に対する右仮登記の終了の事実を合せ考えると、所有権移転登記を求められないし、右村上正一に対しても、被控訴人の右仮登記順位を仮装のため主張できないため、被控訴人は同土地について所有権取得ができないことになつた。数箇の不動産を目的とする本件売買契約について、売主である控訴人から右売買契約全部及び既に履行済の第一目録記載の土地について解除できないことは前記(一)説示のとおりであつて、買主である被控訴人から履行されてない第二目録の土地について、契約の目的物が可分である本件では、控訴人の履行不能を事由として、第二目録記載の土地だけを選択して売買契約を解除できる。前記甲第二号証の記載によると、当事者が契約条項に違反したときは本契約を解除し、相手方に対し損害賠償として一五〇万円を支払う約定が認められるから、控訴人は同金員及び右仮登記の翌日である昭和三二年三月二四日から完済まで年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。前記認定事実によると、控訴人は被控訴人の附帯控訴理由(四)において主張の土地上の建物を何等権限なくして同土地を占有することになるから、同建物を収去して同土地を明渡す義務がある。
よつて、本件控訴は民事訴訟法第三八四条によりこれを棄却し、附帯控訴請求について右認定の範囲において認容し原判決を変更し、訴訟費用について同法第九六条、第八九条、第九二条但書を適用し仮執行の宣言について、同法第一九六条を適用して金銭請求についてのみ附与することとし、他の請求に附与するを相当でないと認め、主文のとおり判決する。
別紙(一)
第一目録
名古屋市中区葉場町二三番の二
一、宅地 四一四、七四平方メートル(一二五坪四合六勺)
右仮換地名古屋中八工区一六Dブロツク六番
一、宅地 八四坪六合
(右をEの土地という)
右同所三八番の一一
一、宅地 五六六、九八平方メートル(一七〇坪)
右同所六三番の三
一、宅地 九八、七七平方メートル(二九坪八合八勺)
名古屋市中区流町四八番の一六
一、宅地 二四、七九平方メートル(七坪五合)
右三筆仮換地名古屋中八工区一六Dブロツク五番
一、宅地 八九坪五勺
(以上をA、B、Dの土地という)
第二目録
名古屋市中区向田町一五九番
一、宅地 三八六、〇八平方メートル(一一六坪七合九勺)
右仮換地名古屋中八工区一六Dブロツク四番の一
一、宅地 五七坪六合一勺
(右をCの土地という)
第三目録
名古屋市中区波寄町四一番
地上建物
家屋番号 第四一番の二
一、木造瓦葺二階建居宅
建坪 三〇三、〇〇平方メートル(九一坪六合六勺)
外二階 三〇三、〇〇平方メートル(九一坪六合六勺)
別紙(二)
第一目録
第一、名古屋市中区葉場町二三番の二
一、宅地 四一四、七四平方メートル(一二五坪四号六勺)
右仮換地名古屋中八工区一六Dブロツク六番
一、宅地 八四坪六号
(実測 八五坪六合二勺)
第二、同所三八番の一一
一、宅地 五六六、九八平方メートル(一七〇坪)
右同所六三番の三
一、宅地 九八、七七平方メートル(二九坪八合八勺)
名古屋市中区流町四八番の一六
一、宅地 二四、七九平方メートル(七坪五合)
右三筆仮換地名古屋中八工区一六Dブロツク五番
一、宅地 八九坪五勺
(実測 八九坪四合四勺)
第二目録
名古屋市中区向田町五九番
一、宅地 三八六、〇八平方メートル(一一六坪七合九勺)
右仮換地名古屋中八工区一六Dブロツク四番の一
一、宅地 五七坪六合一勺
(実測 五七坪六合九勺)
第三目録
名古屋市中区波寄町四一番
地上建物
家屋番号 第四一番の二
一、木造瓦葺二階建居宅(別紙図面甲表示の建物)
建坪 三〇三、〇〇平方メートル(九一坪六合六勺)
外二階 三〇三、〇〇平方メートル(九一坪六合六勺)
(実測建坪 一一四坪七合八勺)
(外二階 一一四坪七合八勺)
第四目録
名古屋市中区葉場町二三番の二
一、宅地 四一四、七四平方メートル(一二五坪四合六勺)
右仮換地名古屋中八工区一六Dブロツク六番
一、宅地 八四坪六合
(実測 八五坪六合二勺)
右地上建物
一、木造トタン葺平家建物置(別紙図面乙表示の建物)
建坪 一〇、八〇平方メートル(三坪二合七勺)
一、木造トタン葺平家建物置(別紙図面丙表示の建物)
建坪 七、七六平方メートル(二坪三合五勺)
右丙の建物のうち別紙図面(イ)(ロ)(ハ)(ヘ)(イ)の各点を結ぶ線によつて囲まれた部分五、一八平方メートル(一坪五合七勺)
名古屋市中区葉場町弐拾参番の弐外
(中第八工区一六Dブロツク四番ノ一、五番、六番)
測量図
(単位=間)
(土地) (建坪)
四番の一 五拾七坪六合九勺 四拾弐坪五合弐勺
五番 八拾九坪四合四勺 七拾弐坪弐合六勺
六番 八拾五坪六合弐勺 五坪六合弐勺(小屋二棟全部)
但 建物寸法ハ柱外法ノ実測トスル
<省略>